終末期(ターミナル)の口腔ケア
終末期とは多くの方が最後に通る道です。人生、最後の時はデリケートな事も多く悩んでしまうことがあります。同じように、終末期の口腔ケアを行っている歯科衛生士さんや終末期医療に関わる方にも読んで欲しいです。
終末期(ターミナル)ケアって?
日本医師会では
と定義しています。
終末期医療に於いて、心肺停止(CPR)状態になった時に二次心肺蘇生措置(ACLS)を行わないこととされています。
患者さん自身がDNR(蘇生処置拒否)を指示した場合は主治医がその患者さんの診療記録に記載します。心肺蘇生を試みてはならないことが医療スタッフに伝えられます。心肺蘇生が行われない為、後続の蘇生処置【電気ショックや挿管しての人口呼吸】なども行われません。
この指示は終末期の患者さんにとって必要がなく、かつ望ましくない、体に負担をかける治療を回避するのに役立っていました。終末期の心肺蘇生の成功率は極めて低いです。
終末期患者さんの最後の日々をどう支援するかを示す言葉
最小限の不快と
最大限の尊厳
という言葉があります。
お口の中を触られるのを嫌がる方は多いんです。最小限の不快って難しいなぁと日々感じています。
死期が迫っていることを示す兆候
呼吸リズムの変化
チェーンストークス呼吸
小さい呼吸から、徐々に一回換気量が増えて、大きな呼吸となった後、次第に呼吸が小さくなり、一時的に呼吸停止となる。という周期が繰り返される呼吸のことである。
1周期は30秒から2分くらいのことが多い。死亡直前に見られることも多いが、必ずしもチェーンストークス呼吸=死亡ではない。
死前喘鳴
・吸気時と呼気時に咽頭や喉頭部の分泌物が振動して起こるゼイゼイという呼吸音である。周囲で見守る家族の91%が辛さを感じるという調査もある。
下顎呼吸
呼吸中枢の機能をほぼ完全に失った状態でみられる異常呼吸パターンのひとつである。呼吸補助筋との連動によって頭部を後ろに反らした状態となり、口をパクパクさせてあえぐような努力様呼吸がみられる。長い呼吸停止を伴い、そのまま放置すれば死に至る。終末期や意識障害における呼吸困難の症状として認められ、死期が近づいている兆候のひとつとされています。
意識や認知機能の変化
・意識レベルの低下
・傾眠
傾眠とは声かけや肩をポンと叩くといった弱い刺激で意識を取り戻す程度の軽度の意識障害の一種です。一見、睡眠不足の人が日中眠気に襲われ、うとうとしているのと同じように見えますが、ただの居眠りとは異なります。
・昏睡
昏睡とは外部からどのような刺激が加えられても反応がない状態を示しています。また、痛み刺激に顏を少ししかめる患者も昏睡に含められる医学論文が多くある。その場合でも【痛み刺激に対して全く反応しない】が深昏睡とされる。
・ 意識や認知機能の変化
経口摂取の変化
・食事・水分が取れない
・嚥下障害
嚥下障害とは飲食物の咀嚼(食べ物を細かくなるまでよく噛むこと)や飲み込みが困難になる障害を言います。
皮膚の変化
・チアノーゼの出現
チアノーゼとは血液の中の酸素が欠乏して、皮膚や粘膜が青黒くなること。
・色調の変化
血流の状態が悪くなると、唇の色や爪の色が紫色になったり皮膚がひんやりと湿ってきます。
・四肢の冷感
手足の抹消が冷たく、不快に感じる症状を指す言葉です。
・口唇 鼻の蒼白
蒼白とはあおじろくなること。血の気がなく青ざめていること
・鼻唇溝の消失
小鼻の脇から唇両端に向かってのびる溝のことです。苦しいので口を開けた状態になる為、鼻唇溝の消失します。ターミナル期を示す状態です。
・栄養状態や心臓や腎臓の働きが悪くなることで、むくみがでることもあります。
情動的な状態変化
落ち着かなさ・身の置き場のなさ・精神状態の変化をいいます。
全身状態の悪化
身体機能の低下・臓器不全・耐え難い全身の倦怠感
血圧・脈拍の低下
血圧が下がってくると、呼びかけにも応じにくくなります。
収縮期血圧が70mmHg未満になると身体に甚大な影響が出ます。上の血圧が70を切ると腎臓のろ過機能が落ち、60以下になると脳血流が維持できないため、呼吸や心拍維持も困難な危篤的状況になります。
ターミナル期の口腔内と口腔ケア
【口腔内】
・齲蝕や残存歯による裂傷や褥瘡・それに伴う感染・原始反射の出現等による義歯使用障害
(原始反射とは無意識に特定の筋肉などが動く現象です)
・脱水による口腔乾燥・健常では罹患しない粘膜疾患
・口腔内からの不正出血や粘膜の抵抗性低下
・天疱瘡・類天疱瘡‥点滴が身体にまわらない為に起こる
天疱瘡とは自己免疫疾患のひとつで、皮膚や粘膜(口の中)に水ぶくれ・ただれ(びらん)・赤い発疹(紅斑)などができる病気
・顎骨壊死
・あごが外れやすい
【口腔ケア】
・重度の口腔乾燥
歯科の訪問診療はせいぜい週1回か2回の所が多いと思います。終末期の患者さんにおいては訪問口腔ケアの限界を感じます。看護師さんや家族に指導してお願いしていくしかありません。死期が近づいてくると口腔内の状態はもの凄く悪化し、ほぼ改善しなくなります。身体に負担をかけないよう短時間でできるように配慮していますが、痂疲が著しくまだまだ発展途上中です。(すみません)
・口腔内からの不正出血
終末期の患者さんによくみられますが、小さな傷であっても出血傾向にあります。また、喀痰の増加の為に看護師さんが吸引すると、少しの傷でも咽頭部から出血があり出血が固まって赤黒くなっいる咽頭部をみかけます。スポンジブラシで取り除きます。
こちらもまだまだ勉強中です。
スポンジブラシの使い方はこちら↓
エピソードとまとめ
終末期の患者さんの口腔ケアを何度もさせて頂いていますが、考えさせられる事がとても多いです。亡くなった後はよく考えてしまいます。
『この口腔ケアで良かったのか』と・・・
私が診させて頂いた終末期の患者さんの中には、痂疲が酷く嘔吐反射が止まらない方や顎が外れてしまって最後までどうやっても戻すことができなくなった方や残存歯が口唇に当たって酷い咬傷になった方など色々です。
その都度、医師・歯科医師・看護師さんなどとよく話し合っていますが、まだまだ至らなくて申し訳ない気持ちです。そして、正直まだ怖さもあります。
歯科医院内で働いていたら、こんな経験はしなかったかもしれませんが(;^ω^)
終末期の患者さんに最小限の不快で心置きなく休めるように、少しでも力になれると良いなぁと思っています。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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